どれをどう使うか
分子モデルをグラフィカルに精密化するソフトウェアとして、QUANTAは非常に優れていると思われる。
しかし、初めて使用する際、特に解析の初心者(マニュアル作成者本人を含め)の立場からすると、各プログラムをどの様なケースで用いれば良いかが判断付かない。
「どれをどう使うか」、これまでの少ない経験に基づく極めて主観的なものではあるが以下、参考まで。
基本は「兎も角、電子密度にモデルを合わせる。そのためには何を何回使っても良い。」
分子置換法から解いた場合
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“Mutate residue”・・・アミノ酸残基の置換
分子置換法で位相を解いた場合など、モデル分子のアミノ酸配列を“Mutante residue”を使って正しい配列へと置換する。
もちろん他の位相決定法で、別のアミノ酸(アラニン)があてはめられている場合にも有効。
作業としては単純だが重要であり、劇的にモデルが修正されている。
取りあえず修正してみる
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“Refine 1 residue”・・・アミノ酸残基と電子密度が合っていない
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“Fit side chain by RSR”・・・側鎖が電子密度が合っていない
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“Fit main chain by RSR”・・・主鎖が電子密度が合っていない
以上、3つの組み合わせで何とかする。
“Refine 1 residue”は全体的な構造のフィッティングに効果があり、電子密度とアミノ酸残基にズレがあれば、とりあえず実行してみる。
“Fit side chain by RSR”は側鎖のフィッティングに効果的であり、実行時に選択する原子を変える、また続けて別の原子で実行する、
などで結果が変わるので色々試してみると良い。
また、“Fit side chain by RSR”実行後に“Refine 1 residue”を実行、その逆、などプログラムを実行する順番を変えることでも、
結果が随分変わる。
“Fit main chain by RSR”はそれ自体の実行による効果はもちろんだが、例えば“Refine 1 residue”により全体的には一致したが主鎖にズレが生じた、
などのケースにも良く使用する。
つまり、上記3つ(に限らず複数)のプログラムを組み合わせて、一つのアミノ酸残基の修正を行えば良い。
なお、組み合わせで使っていると、途中までの構造は電子密度とフィットしていたが別プログラムの実行により逆にズレが大きくなる、
と言うケースも多々あるので、まめに“Save changes”する。
効果のあった時点で“Save changes”しておけば、その後構造がどうなろうと、仮に断片化したとしても“Undo last fit”すれば元の構造に戻せる。
無いものを消す
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“Add-delate”・・・アミノ酸残基の削除
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“Mutate residue”・・・側鎖の削除
以上を使って、電子密度が曖昧な部分のモデルを削除。
N(C)末端のアミノ酸残基の電子密度が曖昧(位相改善が不十分)ことは良くある。
曖昧な電子密度にモデルが挿入されていることが精密化の妨げとなることもあるため、その様な場合“Add-delate”でアミノ酸残基を削除する。
また、主鎖の電子密度は明確だが側鎖では不明瞭な場合など、末端部に限らず、“Mutate residue”でアラニンに置換し側鎖部分のモデルを削除する。
どちらの場合も、精密化が進み位相が改善されるに従い、電子密度がはっきりしてくるケースがある(ない場合もある)。
いずれにせよ、ないものは諦めてあるもので何とかする。
なお、削除の前にシグマレベルを下げて電子密度を確認する。表示レベルでは見えなくとも、レベルを下げると電子密度が確認できる場合もある。
また、電子密度によっても変わるので、2fofc mapだけでなくomit mapなども作成して確認してみる。
有るものに入れ直す
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“Flip torsion 180 deg.”・・・結合の向きを逆転
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“Geometric conformation”・・・側鎖の修正
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“Add-delate”・・・アミノ酸残基の再挿入
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“Mutate residue”・・・側鎖の再挿入
以上を使って電子密度にモデルを入れ直す。
これまでのプログラムは基本的には自動フィッティング機能であるため、極端な構造変化を伴う修正ができない場合がある。
電子密度は確認できるがフィッティングされない場合など、モデルを入れ直すことで改善するケースもある。
“Flip torsion 180 deg.”は結合面を反転させる。モデルの向きと反対方向(付近)に電子密度が存在するがフィットされない、などで実行。
“Geometric conformation”は側鎖の候補構造を存在確率に従って表示する。候補の中から電子密度に比較的フィットする構造を選択し、
加えて“Refine 1 residue”などを実行することで効果がある場合もある。
また、“Add-delate”で一度アミノ酸残基を“Delete residue”し、改めてアミノ酸残基(同じアミノ酸残基 or アラニン)を
“Add res at terminal”により再度付加することで電子密度にフィットすることがある(末端部に限らず、内部構造でも実施可能)。
同様に“Mutate residue”で一度アラニンに置換し、再び正しいアミノ酸残基に再置換することで、側鎖がフィットされることがある。
これらを実施後、“Refine 1 residue”“Fit side chain by RSR”などを加えて実行することで、効果が上がる場合もある。
実行の結果、電子密度に合わなければ“Undo last fit”。
矛盾が生じた構造を直す
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“Reguralize”・・・構造の強制修正
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“... fixe atoms”・・・原子の固定
修正の過程で構造的に矛盾が生じたものを直す。
電子密度にはフィットするものの構造的におかしい、あるいは前後のアミノ酸残基との結合状態がおかしい、と言う場合、全てまとめて“Reguralize”する。
少なくとも、構造的な不具合は解消される。
ただし実行の結果、モデルが電子密度と大きくかけ離れてしまう場合もある。その様な場合は、
電子密度に一致する主要な原子を幾つか“... fixe atoms”で固定してから、“Reguralize”を実行する。
うまくすれば電子密度にもフィットし構造的にも問題ないモデルに修正される。
なお、“Reguralize”はケースを問わず実行すると、構造的な矛盾を解消しながら修正を進めることができる。
わずかなズレを修正
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“Edit backbone tor”・・・主鎖の修正
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“Edit chi angle”・・・側鎖の修正
これらはわずかなズレの修正を行う際、有効。
“Edit backbone tor”は主鎖の、“Edit chi angle”は側鎖の結合面、角度の微妙な調整に効果的。
それぞれ“Fit side chain by RSR”や“Fit main chain by RSR”による修正ではモデルが大きく変化しすぎてしまう際など、利用してみる。
無茶を承知で
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“Move atom”・・・原子の位置を手動
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“Move zone”・・・アミノ酸残基を手動
任意の場所に各原子、アミノ残残基を移動する。
上記のフィッティング機能では、修正できない場合など、手動で原子や分子を無理やり移動し、電子密度にフィットさせる。
ただし、ほぼ間違いなく構造的に矛盾が生じてしまうため、実行後は必ず“Reguralize”が必要。
半自動的な
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“Move atom + reg. res”・・・原子の手動に伴いアミノ酸残基が矛盾のない構造へ変化
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“Move zone + reg. zone”・・・アミノ酸残基の手動に伴い前後のアミノ酸残基が矛盾のない構造へ変化
簡単に言えば、それぞれ“Move atom”、“Move zone”を“Reguralize”と合わせて実行する様なプログラム。
制御が少し難しいが、フィットさせたい原子やアミノ酸残基の移動と、移動に伴い生じる構造的な矛盾を解消する操作が同時に行える。
また、「矛盾が生じた構造を直す」同様、“... fixe atoms”で動かしたくない原子を固定してから、実行すると良い結果になる場合もある。
以上、全てではないが“Build Atoms”パレット各プログラムの主観的な説明。
“Structure”の各プログラムは複数残基の同時修正を試みる点で大きな違いがありますが、“Build Atoms”の各プログラムの様子がわかれば、
徐々にその効果が分かると思います。
なお、精密化の過程で、定期的に“Create New Generation of …”オプションにより、msfファイルを保存しておくことをお勧めします。
“X-Build”“Structure”の各プログラムを実行していく過程で、収集が付かなくなることは間々あります。
その様な場合でも、同オプションでファイルの保存をしておけば、古い構造ファイルに戻って精密化を再開することが可能です
(参考「msfファイルの“Saving Option”」)。